CSPPをもっと知る > 学生・修了生からのメッセージ > グループインタビュー > VOL.1
「自分とは何かを自問し続けなければ、セラピーはできない」。自分自身を深く掘り下げていく独自のオンライン授業。
2012年 大学&大学院.net (株)リクルート
 特集 編集部のスペシャルレポートより


「臨床家が教えることではじめて、生身の人間の悩みを受けとめられる臨床家を育てることができる」。
アライアント国際大学/カリフォルニア臨床心理大学院は、 臨床心理の先陣を切った米国の大学院CSPP(California School of Professional Psychology)の 東京サテライトキャンパスとして、米国で臨床の教育を受けた教員陣により、心理臨床家を育成するための独自の教育を行っている。
同大学院の特徴の1つであるオンライン授業を担当する西澤先生と、3名の修了生にお話を伺った。
ケイ線
西澤 奈穂子
西澤 奈穂子

臨床心理学研究科准教授 オンライン教育コーディネーター
カリフォルニア州認定クリニカル・サイコロジスト
詳しくはこちらから
ケイ線
小沢 美加さん(2010年修了)
小沢 美加さん(2010年修了)

外資系企業 人事総務担当
「私には心理学のバックグラウンドがなかったので、はじめはおそるおそる授業に臨んでいたように思います。
カリフォルニア臨床心理大学院で"自分を知る"ことの大切さを学び、自分の先入観にとらわれることなく相手の話を聴くよう努めています」
佐藤 文昭さん(2009年修了)
佐藤 文昭さん(2009年修了)

心理カウンセラー
「"臨床家を育てる"という理念のもと、非常に実践的なカリキュラムが組まれています。
特に、自分自身と深く向き合うという経験がなければ、こうして臨床家として働いている今の自分はないと思います」
掛水 綾子さん(2010年修了)
掛水 綾子さん(2010年修了)

心理カウンセラー
「時間や場所を問わず、心理療法の先進国である米国のカリキュラムを学べるのがカリフォルニア臨床心理大学院の魅力だと思います。
米国の臨床現場を知る教員の方から、最新の情報を日本の文化に適用できる形で説明してもらえるということも入学の決め手になりました」
ケイ線
臨床家がつくった、臨床家を育てるための大学院
社会が多様化・複雑化するにつれて、家庭内暴力や引きこもり、学校でのいじめや職場でのパワーハラスメントなど、様々な悩みを抱える人が増えており、そうした方々の悩みに直面できる心理臨床家の重要性が高まっている。しかし、ほとんど臨床経験を積まないままカウンセリングの現場にいきなり放り込まれてしまうことで、かえって状況を悪化させてしまうこともある。
こうした状況に対して、「生身の人間の悩みや苦しみと向き合う臨床家は、臨床家が育てなければならない」という思いから、臨床家が教鞭をとる高等教育機関として、1969年に米国で設立された大学院がCalifornia School of Professional Psychology(CSPP)だ。その方針と充実したカリキュラムは、その後全米の多くの大学院で採用されるほど高い評価を受けている。この教育を日本で展開するために2002年に誕生したのが、カリフォルニア臨床心理大学院東京サテライトキャンパス臨床心理学研究科修士課程である。
「自分を知ることで、はじめてセラピーができる」
カリフォルニア臨床心理大学院には、「臨床家を育てる」ための、一貫して流れる考え方がある。
「私たちは"自分を知る"ということが、臨床家としてのスタートラインであると考えています。極端な言い方をすると、"自分を知ることができなければ、セラピーを行うことはできない"ということです」とオンライン教育コーディネーターをつとめる西澤准教授は言う。
セラピーのために必要な「自分を知る」ということについて、修了生の小沢さんはこう語っている。
「例えば、あるクライアントのカウンセリングを行っているとしましょう。彼女(クライアント)は父親からの激しい叱責に自分を見失ってしまい、とても悩んでいます。そして偶然あなたにも、厳格な父親による支配的な家庭で育った過去があるとする。こうしたケースの場合、人は無意識に自分の過去を重ね合わせてしまうことがあるのです。この時自分の背景を意識できれば、父娘関係のみにとらわれず、母親や兄妹、そして彼女の家庭の中での役割に目を向けることで、真にフォーカスすべき問題が見えてきたりします。つまり、自分自身が持つバックグラウンドをしっかり把握できていないと、クライアントの話を聴き、理解して、カウンセリングを行うということができないのです」。
「自分とは何か」を常に考えさせられるオンライン科目
こうした、「自分を知る」ことの大切さは、カリフォルニア臨床心理大学院のカリキュラムすべての基本だ。たとえば、全体の3分の1を占めるオンライン科目の場合を見てみよう。 カリフォルニア臨床心理大学院はフルタイムの通学型ではなく、オンラインと対面のスクーリングを組み合わせた学びのスタイルを採用している。これは、仕事を持つ社会人や小さな子どもがいる方でも、自宅で自分の都合に合わせて授業に参加できる良さを選択したもの。そして、このオンラインでの授業はとても特徴があるものになっている。
学生たちは「Moodle」という掲示板機能を持ったeラーニングのプラットフォームを使って、課題に対するディスカッションを掲示板上で行うことになる。
「オンライン科目では、週1回のペースであるテーマについてのレクチャーとそれに関する課題が出ます。学生たちはその課題に対する見解を述べたスレッドを、掲示板に一人ずつ立てるのです。その後、学生たちはお互いのスレッドにレスを付け、さらにそこに返信する、といったことを繰り返しながらディスカッションの輪を広げていきます」と西澤先生は説明してくれた。この掲示板機能を使ったディスカッションという仕組みは、議論を深めるだけでなく、「自分自身の感情と向き合う」ということにもつながるのだという。
「例えば、一人ひとりが自分のスレッドを持つわけですから、レスがたくさん付いて盛り上がるスレッドもあれば、まったくレスが付かない場合も出てきます。最初のうちは『どうして自分の意見には反応がないのか』と悩む人がほとんどです。しかし、レスがないことは無視されているということではありません。それだけ意見に隙がなく書き込みづらいというふうにも考えられますし、他のスレッドにたまたま注目が集まっているだけなのかもしれません。無視されているように感じたり、自分が非難されているように思ってしまうのは、結局自分でそのように解釈してしまっているだけなのです。学生たちは毎週繰り返される掲示板でのディスカッションを通じて、次第にこのことに気がついて行きます」(西澤准教授)。
この掲示板を使ったディスカッションについて、掛水さんは当時のことをこう振り返った。
「自分の立てたスレッドにレスが付かないのは、すごく寂しいこと。そのせいか、私も最初の頃はレスをつける際、あまり伸びていないスレッドにあえてレスを付けるようにしていたほどです(笑)。それに加えて、インターネット上で匿名で好きなことを書くのと違って、相手の顔が見えない中で自分の名前で意見を書くということはこんなにも不安を感じることなんだ、というのは新しい発見でした」。
同じように佐藤さんも、「他の学生のスレッドにレスを2つ以上つけるというルールがあるんですが、私はそれがしんどかった。相手が真剣に考えた意見に対して、自分の意見を書くというのは想像以上に難しい。最初の頃は相手を傷つけないようにと無意識に気配りをしていたから」と言う。
掲示板を利用したオンライン科目のディスカッションは、読み込む時も、そしてコメントを書き込む際にも、自分と他者の存在を強く意識しながら進むことになる。
クライアントが抱える悩みを疑似体験する
このオンラインでのディスカッションによって鍛えられるコミュニケーション能力は、これからの心理カウンセラーにとってたいへん重要な能力になるはずだ、と西澤准教授は言う。
「インターネットの普及によって、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)や多くのユーザーが集まる掲示板での、"ネットいじめ"に代表される相談もありますし、オンラインで行うカウンセリングというのも出てきています。オンラインでのこうしたやりとりが、当事者にとってどんな影響を与え、コミュニケーションの際に何に気をつけなければいけないか。そんなことがしっかりと理解できる能力はとても貴重なものです」(西澤教授)。
小沢さんは、実際にネット上でのコミュニケーションに悩む人から相談を受けることがあるという。
「自分の書き込みに対して全く反響がなく無視されているようでつらいといった相談を受けることがありますが、そんな時ひとつの方法として『そもそも何を期待して書き込んでいたのか』と問いかけることができています。そもそもの目的は『レスをもらうこと』だったのか、それとも『自分の意見を発信すること』だったのか。自分自身をあらためて考えることがきっかけとなって、その方の悩みがパッと晴れたりすることもありますよ」。
オンライン科目は「分け合いの授業」
オンライン授業が始まる前のオリエンテーションで、西澤先生は学生にある話をするという。
「"オンラインは分け合いの授業です"と、いつも説明しています。クラスは会社員、医師、主婦など、さまざまな人間の集合体。異なる背景、経験、知識などを持つ一人ひとりが、それぞれの異なる立場から見えるもの、感じること、考えることをシェアし合うことが何よりの学びになるのです」。
自分の意見が他者とは異なることを認め、尊重することが学びをさらに深めていく。佐藤さんは言う。
「オンライン授業が始まったばかりの頃は、他の学生の意見に感情的になることもありました。顔が見えないぶん、必要以上に感情が高ぶってしまうんです。しかし時間が経つにつれて、自分の意見と他者の意見が異なるのはあたりまえなんだ、と思えるようになりました。この経験が、臨床の現場でとても役に立っています。担当しているクライアントから厳しい言葉を投げかけられた時は当時を思い出し、一歩引いて客観的に考えるようにして感情をコントロールしています」。
また、対面によるディスカッションの場合は話者が限られてしまう傾向があるが、オンラインでは学生全員に平等に発言の機会が与えられるというメリットがあると西澤准教授は言う。
「対面のディスカッションでは、性格や声の大きさによって特定の人間がイニシアチブをとり、発言できない人も出てきてしまう。オンラインでは掲示板を一つのテーブルとして、全員が無理なく発言できるのです。また、発言したくない時は無理に発言しなくてもいいですし、自分のスレッドについてレスのすべてに答える必要はありません。特定の2人の会話だけが深まるよりも、Aさんがつけた質問にBさんが答えて、それを受けてCさんも自分の意見を述べる…といった具合に会話の輪が広がることのほうが大事です」。
オンライン授業には、特定の画一的なフォーマットは存在しない。学生一人ひとりの発言とそのコミュニケーションが、そのクラスでしか誕生し得ない独自の授業をつくっていくのだ。
(2012年「大学&大学院.net」㈱リクルート)
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